東京高等裁判所 昭和41年(ネ)814号 判決
上叙のように、昭和三一年一〇月末日までの各賞与協定中の欠勤控除条項について仔細に検討しても、そこでいう欠勤に「ストライキによる休業」を含ませることができるか否かを一義的に明らかにすることができなかつた。他方、欠勤なる用語は、通常就労義務があるのに就労しないことを指すと一般に解されている。
しかしながら前記一、二の(二)、(三)、(四)の前段の各認定事実に徴すると、1、被控訴会社における賞与は、半期ないし一年毎に労使間で締結される各協定によつて始めてその額、配分方法、支給時期が定まり、そのうちには配分額につき被控訴会社の裁量に委ねられる査定部分を含み、また従業員が自己の都合で支給日以前に退職するときには賞与期間中に在職していても賞与の支給を受けない取扱になつている(控訴人宇野智弥本人の当審(第一回)での供述)のみならず、営利事業を目的とする株式会社の性質上、企業の実績如何によつて賞与額が左右され、時には零となる場合の起りうることも否定できないのであるが(なお本採用者および臨時工に対する賞与の差異に関する控訴人らの主張事実を認めうる証拠はない。)、別紙一覧表記載の十余年間において実際には、賃金に付加しておそくとも半期毎に当該期間全部の賞与が支給され、かつ、査定分を除く一率分賞与については、当該期間における基準賃金にもとづいてその支給額が画一的に算定されて来ているのであつて、賞与期間(半期)を一単位としてみるならば、賞与は、その期間内に現実に提供された労働全体に対する対価たる実体を保有しているものというべく、前記各賞与協定も賞与のかかる実体にもとづきこれを具体化するものにほかならないこと、2、さらにアメリカ・オーチス社の経営支配を受ける特殊な事情が加わつて毎月定額支給方式の行なわれた昭和二九年五月一日以降昭和三一年一〇月三一日までとそれに先立つ昭和二九年上半期との三年間においては、賞与が基準賃金そのものの実質を持つことがあらわになつたこと、3、その後右方式が廃止され、旧に復したものの、賞与の以上のような性質に格別の変化をもたらされなかつたことと、4、本件各賞与協定における欠勤控除条項は、毎月定額支給方式の廃止直後前記二、(四)前段認定のような経緯の下に作成されるに至つた昭和三二年上半期・下半期の賞与協定とその形式を同じくし、その欠勤控除の対象とされるものは一率分賞与に限定され、かつその控除比率も欠勤一日につき一五〇分の一とされ(一ケ月の就労日数を二五日と定めてその半期分(六ケ月分)を算出すると一五〇日となる。一ケ月の実際の稼働日数は必ずしも二五日と一致するものではないが、被控訴会社においては、他の場合においても見られるとおり、一ケ月の就労日数を二五日と数えるのを例としているのであつて、計算の便宜を考慮すると、これを不合理とすることはできない。)、就労日数に比例して定められているのであつて、できる限り賞与が日々の労働にも対応するよう配慮されていることが認められ、これらの諸点と、前記二、(二)認定のとおり昭和二八年一一月一日以降昭和三一年一〇月末日までの期間の賞与に関し、実質的にストライキによる賞与からの控除を両当事者が是認したこと、前記二、(四)後段認定の事実、原審証人筒井志郎の証言中問「被告会社では、従来、どのような場合を欠勤控除の対象として取扱つてきましたか。」答「欠勤控除の対象としては、労務の提供がなかつたことを基準とし、病気、事故、ストによる場合であると否とに拘らず、会社に対し労務の提供がないことを基準として控除をしております。」との供述部分(記録第二〇三丁表)に、労働者の固定給はすべて労働時間に対応する賃金であり、ストライキにより現実に労務が提供されなかつた場合には、その限度において賃金請求権は発生しない、との一般的な考え方を合せ考えるならば、前段記載の点を考慮にいれても、なお、本件各賞与協定中の欠勤控除条項における「欠勤」は、ストライキによる不就労を含む意味に用いられているものと認定するのが相当であり、したがつて、またストライキによる不就労を理由として右欠勤控除条項を適用し、賞与からの控除をすることは、同条項所定の態様程度の下では、争議権を抑圧するものとはいえないのである。
控訴人らは、本件控除は争議を抑圧するためにされた不利益処分である旨主張し、控訴人宇野智弥本人は原審(第一回)および当審(第一、二回)においてこれに副う供述をするが、右供述部分はたやすく採用し難い。成立に争のない甲第三号証には、昭和三四年一一月一八日の団体交渉において、組合が「被控訴会社側においてスト指名者に対する賃金の差別を流言しているが、その真偽如何」と問いただしたところ、被控訴会社側が「スト指名者に対し昇給・ボーナスなど賃金差別を行なうなどということは決してしない。」と答えた旨記載されているが、この記載からは到底控訴人らの右主張事実を汲みとることはできない。また、控訴人らは、昭和三七年春の争議参加者中組合役員その他の活動家については査定分賞与からも欠勤控除がされた旨主張し、控訴人鳥海克己および同宇野智弥(第一、二回)の当審における各本人尋問の結果中に、これに符合する供述部分があるところ、仮にそのような事実があつたとしても、その一事から、これより数年前の、しかも一率分賞与から行なわれた本件控除について、被控訴会社に控訴人ら主張のような不当労働行為意思があつた、ということはできない。その他控訴人らが不当労働行為の事由として主張する事実を認めるに足りる証拠は存しない。
叙上認定事実よりすれば、本件各賞与は、賞与期間の労働全体に対する対価たる実体をもつものではあるが、本件各賞与協定により、かつ右協定に定められた要件の下に、具体的な債権として発生するものであり、右協定中の欠勤控除条項もその消極的要件を規定したものであつて、右規定に該当する場合には、その該当する限りにおいて、賞与債権自体が発生しない、と解するのが相当である。一旦発生した賞与債権が欠勤控除条項によつてその一部を控除されるものと解すべきではない。したがつて右条項が労働基準法第二四条第一項但書にいう控除に該当し、無効であるとする控訴人らの主張は理由がない。
(小川 松永 萩原)